ひまわり
「なに、虫歯?」
「いや、なんか口ん中に出来てるっぽい」
そう言って、『このあたり』と、眉間にしわを寄せながら舌を動かしていた。
「口内炎でも出来たんじゃない? 野菜とかちゃんと食べてる?」
あたしが聞くと。
「俺、野菜くえねぇ」
と、なんとも情けない答えが返ってきた。
「そんな事言って、栄養偏ってもしらないからね。いつまでたっても口内炎治んないよ」
「うるせ。こんなもん、そのうち治るよ」
彼が、頬を押さえながら足元の石を蹴とばした。
こんな会話、あたしはなんの違和感も感じなかったんだ。
口内炎なんて、誰にでも出来る。
この時のあたしは、だるそうに歩く彼の背中を見ながら、ただ、肩を落とすだけだった。
なんで、もっと早く気付かなかったんだろう。
なんの為に、いつも彼の傍にいたのだろう。
悔やんでも、悔みきれない。
気づいた頃には、もう、遅すぎて――。
涙が次々に溢れて、止まる事を知らなかった。