pp―the piano players―
 そんなことを考えているうちに目覚まし時計が鳴り出した。が、すぐに止められる。酒井君もわたしも、朝は強い。

 一緒に作った朝食を食べながら、話は酒井君の仕事のことに移る。海外出張だ、と張り切っている姿は、五年前の圭太郎君を彷彿とさせる。口に出しては言わないけれど。

「お土産、楽しみにしていてね」
「仕事をしに行くんでしょう?」
 軽口をたたいて笑い合う。この年月で、酒井君はわたしに安らぎを感じさせる存在となっている。それは紛れもない事実だ。


「空港まで見送りに行けなくてごめんね」
 何度目かの謝罪をする。今日はどうしても動かせない予約があり、わたしは仕事へ行く。
 酒井君は、気にしないで、と首を降った。
「だから泊まりに来たんだからさ」

 酒井君はスーツケースとビジネスバッグを携えているけれど、服装はカジュアルだ。靴を履いて玄関に立つ。
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