pp―the piano players―
「早紀」
 改まって呼ばれ、歩み寄る。段差があるせいで、わたしの方が背が高い。
 と、突然酒井君の腕が伸びて、抱きしめられた。良く知った匂いに包まれて、少し目を閉じる。

「早紀」

 もう一度呼ばれて、目を開けた。心なしか、普段よりも酒井君の鼓動が速い。

「正確な予定がまだ、立てられないんだけれど」
 酒井君が喋る度に生まれる震動が心地よい。
「帰国する時は、迎えに来て欲しい」

 頷く。

「そして、答えを聞かせて欲しいんだ」
 答え。答えとは。
「何の答え?」
 腕をそっと掴まれて、体を起こす。酒井君と目が合う。優しい優しい瞳の奥が熱く光っていた。


「僕と家族になろう。早紀、結婚しよう」

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