pp―the piano players―
 その「留学しているピアニストの娘さん」が帰国しているらしい。数年調律していないとなると、たとえきちんと調律してあったとしても、ピアニストの耳にはかなり狂った音が聞こえるはずだ。そんなピアノを弾いているのだろうか。

「行って来い」
 店長の命を受ける。

「世界のどんなピアノでもメンテナンスできる店、をうちの売りにするんだからな。加瀬、お前の研修だってそれでどれだけ」

 社費を注ぎ込まれた俺の腕は、それ以上の利益を生みださなければいけない。海外メーカーのピアノは、別段、海外でメーカーに請わなければその調律や調整が出来ないというものではない。国内の技術で応対できる。しかし。音楽の本場ヨーロッパで修業した調律師による調律。消費者の本物志向に応えるサービスを提供する、という会社の方針だ。
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