pp―the piano players―
電話を掛ける。コールが一回、二回……しばらくして、その音が高くなる。出ない。受話器を置いた。
「出ませんよ」
「営業に諦めは禁物だ」
店長はこちらを見ずに言う。
「自分は技術職なんですが」
この愚痴には何の反応もない。
仕方なく、電話から離れた。今日は店の近所の高校に赴き、音楽室のグランドとアップライト、体育館の二台のグランドピアノの調律をすることになっている。一日がかりだ。電話は帰社してからだ。
***
「はい……」
あっけなく、再度の電話は繋がった。細い、女性の声だ。
「白峰様のお宅ですか」
「……はい」
店の名前と、用向きを伝える。
「調律……」
なぜ繰り返す。知らない筈はないのに。
「矢治さんは」
「白峰様のお宅を担当していた矢治は、仕事を辞しております」
「なぜ?」
「……」
受話器を押さえ、店長に救援を求める。矢治さんはもう八十近くなるが、俺の出会った調律師の中では一番の技術を持っていた。
「すみません、事情を存じている者に代わります」
「店長の須山でございます」