pp―the piano players―
　思えば、圭太郎と二人で話すのは高三のあの夏以来だ。圭太郎に会うときはいつも、早紀がいたし、あとは白峰美鈴や、ドイツに来てからはニーナやライスターと一緒だ。

「何の話をしにきたんだよ、仕事か？　私用か？」
　圭太郎はカップを覗き込み、茶を味わっている。
「今日は仕事の話をするためにここに来た。でも今は、圭太郎、早紀の話をするために僕はここにいる。私用だ」
「私用、な。早紀の話だな」
　確認するように呟くと、圭太郎はそっとカップを置いた。そして、僕に向かってきた。

　僕の胸倉を掴んで、顔を歪めて声を荒らげた。
「何でお前はここにいるんだよ！」
　強い怒りを込めた声だ。
「お前がここにいたら、あいつは日本で一人だろうが。しかも先生が倒れたんだ。一人で、自分のことと、先生のことと、あんな不安な声を出させて、どういうつもりなんだよ。何であいつのそばにいないんだ」
　背丈はそれほど違わない。真正面に圭太郎の顔がある。眉をひそめ、額に皺を寄せた顔がある。おそらく、僕も同じような顔をしているだろう。だけど、圭太郎ほどは興奮していない。

　圭太郎の手を掴み、僕のシャツから離す。
「僕の質問には、jaと答える訳だな」
　圭太郎は視線を逸らして椅子に座った。茶を啜る。
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