pp―the piano players―
卒業式は中止。各学部主催の謝恩会も中止。学位記は講堂の出入り口で渡す。その際、親などが同席している者は、一緒に来ること。卒業生は、今後の自分の動きについて次の中から決定し、学位記を受け取る際に告げること。ただし、現在、最寄駅を通る電車は不通。歩いて三十分の所にあるターミナル駅でも、乗り入れている路線のほとんどが不通となっている。
一、徒歩あるいは自転車など、自力で帰宅する。二、親などと連絡が取れており、迎えに来るまで待機する。三、親などと連絡が取れているが、帰宅手段がないため、待機する。四、帰宅する手段はなく、連絡も取れておらず、講堂で待機する。
なお、本学は近隣地区の避難場所に指定されている。本日はこの講堂を避難場所として開放する。当然、学生、保護者、職員も宿泊できる。今後の連絡については、休講連絡用のWebサイトを見ること。
「学位記の受け渡しは、三十分後から学部ごとに受け付けます。四時から法学部、四時半から経済学部、五時から文学部……」
受け付けまではまだ時間がある。レンタルの着物を返しに行こうとわたしたちは一旦講堂を出た。夕方。三月になり日は延びてきたけれど寒い。私服は近くの美容室に預けたままだ。そこで着替えればそれなりの防寒になる。
地面がところどころひび割れている。慣れない草履で歩くが、見たところ倒壊したような建物はない。あのときとは違う。
「もしもし? お母さん、良かった……うん、うん……断水? え、……」
やっと電話が繋がった愛美は、何度も頷きながら母親に自分の様子を伝えている。愛美の家は、どうやら電気と水が止まってしまったらしい。愛美が住む隣県までの電車は動いていない。