pp―the piano players―
「早紀さ」
「うん」
結子が歩みを止めずに言う。
「おうちの人と連絡取れたの?」
「……うん、電話きたよ。あまり揺れなかったんだって」
先ほど先生から電話があったのは本当のことだ。三階の本棚から楽譜が落ちてきたけれど、その程度で、食器棚にあったマイセンのお皿も先生の紅茶コレクションも無傷だった。ライフラインも支障ないと。(あとで聞いた話だと、加瀬さんは、お店の戸棚から楽譜もCDも楽器も落ちて散乱してしまって大変だったそうだ。)
「今日は帰るの? 早紀もうちに来ない? 愛美も泊まるし」
歩いて行けるところに結子の家はある。わたしの借りている部屋とは方向が真逆だけれど。
「ありがとう。でも、帰って部屋を片付けないと……多分いろいろ散らばっていると思うから」
「そっか。でも、心配だよ。帰ったら絶対連絡してよ?」
美容室の店長さんは安堵と憔悴の混ざった表情でわたしたちを迎えてくれた。
「良かった、学生さんたち無事だったのね」
「ああ……あ」
店の奥から暗い、うめき声が漏れてきた。わたしたちの顔を見て、店長さんははっとしたように目を開いた。手招きされて、店の奥に進む。テレビにお店の方たちは釘付けになっていた。
「津波」
誰が発した声だったのだろう。
「ああ、あの車……うわあ……ああ」
水が、陸を覆っていく。何てスピード。田を畑を、街を、人を、波が追って、飲み込んでいく。あそこの家、ほら屋根に人が……。
「うん」
結子が歩みを止めずに言う。
「おうちの人と連絡取れたの?」
「……うん、電話きたよ。あまり揺れなかったんだって」
先ほど先生から電話があったのは本当のことだ。三階の本棚から楽譜が落ちてきたけれど、その程度で、食器棚にあったマイセンのお皿も先生の紅茶コレクションも無傷だった。ライフラインも支障ないと。(あとで聞いた話だと、加瀬さんは、お店の戸棚から楽譜もCDも楽器も落ちて散乱してしまって大変だったそうだ。)
「今日は帰るの? 早紀もうちに来ない? 愛美も泊まるし」
歩いて行けるところに結子の家はある。わたしの借りている部屋とは方向が真逆だけれど。
「ありがとう。でも、帰って部屋を片付けないと……多分いろいろ散らばっていると思うから」
「そっか。でも、心配だよ。帰ったら絶対連絡してよ?」
美容室の店長さんは安堵と憔悴の混ざった表情でわたしたちを迎えてくれた。
「良かった、学生さんたち無事だったのね」
「ああ……あ」
店の奥から暗い、うめき声が漏れてきた。わたしたちの顔を見て、店長さんははっとしたように目を開いた。手招きされて、店の奥に進む。テレビにお店の方たちは釘付けになっていた。
「津波」
誰が発した声だったのだろう。
「ああ、あの車……うわあ……ああ」
水が、陸を覆っていく。何てスピード。田を畑を、街を、人を、波が追って、飲み込んでいく。あそこの家、ほら屋根に人が……。