pp―the piano players―
 高速道路を降りて、何回か交差点を曲がった。赤信号で止まる。
「もうすぐホテルの近くを通るよ、チェックインをしておく?」
「いいえ、病院が先ね」
 ニーナの返答は早い。
 目線でバックミラーを促す。見ると、二人のピアニストがそれぞれに物思いに耽っている。
「さっきからずっと、」
 ニーナは膝の上で左右の指を細かく動かした。
「圭太郎もよ」
 今度は振り返って見る。当然聞こえているだろう。でも圭太郎は目を閉じ、見えない鍵盤の上に指を走らせていた。

 大きな総合病院に着いたのは、夕方と呼ぶには少し早いような時刻だった。
「玄関に付けるから、先に降りて」
「そうするわ」
「先生の病室は」
 と、二つの返事は後ろから。
「私も降りて、二人と行くわね」
「頼むよ。駐車したらすぐ行く」
 ニーナが大きく頷いた。

 ドゥメールと圭太郎が足早に病院の中に向かい、ニーナは振り返って僕に手を振った。手を挙げて応え、ハンドルを切る。平日だが駐車場は混んでいた。少し待って車を停めた。サイドブレーキをかけると、ようやく日本に帰ってきたような心地がして、ポケットから携帯電話を取り出した。

 両親には、帰ってくると伝えていない。
 早紀に会いたい。
「仕事が終わったら、連絡して欲しい」
 それだけメッセージを送り、車を下りた。
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