pp―the piano players―
 「加瀬美鈴」と表札のある病室のドアを開ける。こじんまりした個室だ。
「明日の午後からは大部屋なんですって。今日で良かった」
 ドアのすぐわきに立っていたニーナが小声で言う。
「十五年振りの再会らしいわ」
「いや十四年だ」これは圭太郎。

 見ると、ドゥメールは白峰美鈴の手をとり、頬を紅潮させている。流暢な日本語が、まさによどみなく出てくる。
「まるでティーンエイジャーのようね」
「ああ、そうだね」
 ニーナの例えに深く頷くしかない。
 思い出話、知人の近況、ライスターのこと、圭太郎の活躍のこと。白峰美鈴は、その流れを止めることなく頷き、笑顔を向ける。

「貴方はいいの、圭太郎?」
「まさかあの仲を裂けとでも? 冗談だろ」
 茶でも飲もう、と圭太郎は病室を出る。そうね、とニーナが続いた。好きになった人の言葉を覚えて愛を伝えたいと言ったその人を、横目に見て、僕もその場を離れた。
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