pp―the piano players―
 そうだね、と返事をしようとして、ふと思い出す。魔法を使う者に例えられたピアニストがいたことを。リスト、フランツ・リスト。

「これも仕事を始めてから聞いたけれど、その頃、ヨシ・シラミネとライスターは師弟以上の関係だったの。ライスターも魔法に掛けられていたわけね」
 リストは『ピアノの魔術師』と呼ばれていた。
 その魔術師が作った音楽を、魔女の弟子である圭太郎はあのとき奏で、その演奏を偶然ライスターが聴いて、招かれて渡独、今日に至る。偶然? 話が出来すぎだ。誰がそんなことができるんだ……魔女――白峰美鈴を置いて。

「ナオ」
「ごめん、ちょっと圭太郎の様子を見てくるよ」
 白峰美鈴にそのことを聞いてみたい気がする。
 考えすぎだろうか。だが、圭太郎の才能を見込み、留学させたいと思っていた白峰美鈴が、自身の師である(そして「それ以上の関係だった」という)ライスターに連絡をし、日本に呼び、圭太郎の演奏を聴かせた、と思う方が自然ではないだろうか。

 ロビーを離れて、一度携帯電話が使えるエリアに入る。電源を入れると、丁度早紀から返信があった。メッセージを送る。時計を見ると、面会終了時刻も近い。話し終えるのに、このあとそれほど時間はかからないだろう。病院を出て、ホテルまでか、あるいは駅まで三人を送る。それから、早紀のところに向かうんだ。もうすぐ、会える。
 
 
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