pp―the piano players―
 ドアが開くとわかると、わたしはすぐにテーブルに食事を並べた。温められるものには火を入れた。
 まず先生が降りてきて、その後から圭太郎君が来た。圭太郎君の表情は時々によって違った。怒っていた表情が穏やかになったり、さらに厳しくなっていたり。(わたしに見せないように)目に涙を浮かべているときもあれば、先生に噛み付くような勢いで話し続けているときもあった。
 先生はそれに耳を傾け、時には受け流し、時には笑いに変えて返し、時にはぐうの音も出ないほどに理詰めで攻めた。
 そしてわたしたちは三人で、ご飯を食べた。

 先生には加瀬さんがいる。
 わたしのことを、あんなにも思ってくれる酒井君がいる。

 圭太郎君には、圭太郎君を思う人がいるのだろうか。圭太郎君と思い合っている人はいるのだろうか。

 いたらいいなと思う。
 圭太郎君のことを、受け入れ、よく話を聞いて、圭太郎君のわがままや苛立ちを優しく受け止めて、そしてたくさんの思いを、愛を圭太郎君にあげられるような人が。
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