pp―the piano players―
「大丈夫」

 それは、小さいけれど、確かな声だった。

「義姉さんは、三十五で逝ってしまった。兄さんは、五十で見つかり、それから六年生きた……」
 
 あの人は誰を見るでもなく、宙を見つめている。手を握りしめている。

「もう、十四年も経ったのよ。医学が進歩していないわけが無いわ。だから大丈夫よ。それでまた、同じ病が美鈴を奪おうというのなら、私は……向こうに連れていこうとする兄さんや義姉さん、父さんと母さんを恨むわ」

 胸を何かで突かれたような衝撃だった。
 てっきり、絵美子ちゃんの付き添いだとばかり思っていた。
 違う。あの人は、先生の伯母として、肉親としてここにいるのだ。姪が助かることを祈りながら。

 手術には時間がかかった。
 夜、宮間さんが病院に来た。絵美子ちゃんのお父さんだ。疲れて眠ってしまった絵美子ちゃんを抱き上げて、
「母さん、帰ろう。あとは、加瀬君に任せてさ」
 と言った。あの人は、首を横に振った。

 
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