pp―the piano players―
 だが突然、雨は止んだ。
 ピアニストは手を止めた。

 手を止めた圭太郎は、こちらをじっと見ている。その視線を辿る。僕の隣で、早紀が泣いていた。
 口元に左手を当て、嗚咽を漏らさないようにしているが、ぎゅっと瞑った瞼の端からは涙がとめどなく流れている。右手は自分の腕を抑える。指先は真っ白になり、震えていた。

「出ていけ」

 地鳴りかと思うほど低い声で、圭太郎が言った。
 早紀は体を捻らせて、開けたままの扉から廊下へ飛び出した。僕は腕を伸ばしたけれど、届かなかった。
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