pp―the piano players―
 早紀の目に映る僕の顔が歪んだ。早紀にはそれだけで、肯定していると伝わってしまう。

「でも、大丈夫」
 早紀の髪を撫でる。
「僕やニーナが、圭太郎のために動く。ライスターさんも圭太郎のピアノが戻ることを待っている。圭太郎はもがいているけれど、そこで止まっているような奴じゃない」
 可能性の一つだ。大きな可能性だ。
 そんなことは、早紀が一番分かっているだろうに、僕の言葉に少し安心したような表情を見せる。

「酒井君」
 早紀は目元を拭って立ち上がった。そして、僕に向かって深く頭を下げた。
「どうしたの」
「圭太郎君を、よろしくお願いします」

 そのまま、続けた。
「圭太郎君のピアノの音を聴きたい。自暴自棄にならないで弾いてほしいの。ピアノを弾いていることが、圭太郎君の証になるから」

 「聴きたい」の言葉だけで、圭太郎は充分かもしれない。そしてその言葉は、圭太郎に届くのか。
 あのドアは開いている。
 
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