pp―the piano players―
ふっと雨が上がった。音が途切れた。
圭太郎君の指が止まっている。視線も止まっている。それを辿る。酒井君にぶつかる。酒井君は圭太郎君を睨んでいる。
わたしが見ていることに気付いて、酒井君は一度目を閉じた。
カタン、カタンと、圭太郎君が手際良くピアノを片付けていく音がする。とん、とステージからも軽やかに降りた。
「楽譜を仕舞ってくる。戻ったら行こう」
圭太郎君はホールを出ていった。
酒井君が瞼を上げる。
「酒井君、」
わたしを見て、酒井君は微笑まなかった。夜にしか見せないような表情で、わたしの瞳の奥を覗くように、刺すように見つめられる。
「僕が圭太郎の夢を叶えるよ。早紀のために」
そう言って、酒井君は腕を伸ばす。わたしは捕まる。酒井君という温かい場所。これから酒井君を裏切るようなことを言わなければならないのに、わたしはその温かさに甘えてしまう。
「圭太郎の物語も、早紀の物語も、全て圭太郎の夢を叶えるために使うから」
圭太郎君の指が止まっている。視線も止まっている。それを辿る。酒井君にぶつかる。酒井君は圭太郎君を睨んでいる。
わたしが見ていることに気付いて、酒井君は一度目を閉じた。
カタン、カタンと、圭太郎君が手際良くピアノを片付けていく音がする。とん、とステージからも軽やかに降りた。
「楽譜を仕舞ってくる。戻ったら行こう」
圭太郎君はホールを出ていった。
酒井君が瞼を上げる。
「酒井君、」
わたしを見て、酒井君は微笑まなかった。夜にしか見せないような表情で、わたしの瞳の奥を覗くように、刺すように見つめられる。
「僕が圭太郎の夢を叶えるよ。早紀のために」
そう言って、酒井君は腕を伸ばす。わたしは捕まる。酒井君という温かい場所。これから酒井君を裏切るようなことを言わなければならないのに、わたしはその温かさに甘えてしまう。
「圭太郎の物語も、早紀の物語も、全て圭太郎の夢を叶えるために使うから」