pp―the piano players―
「これを弾きたい」
と、圭太郎君とわたしは同じ楽譜を持っていた。
ベートーベン作曲、作品二十七の二、幻想曲風ソナタ。全楽章弾くの、と先生が聞いたので、わたしたちは自分の弾きたい楽章を先生に伝えた。圭太郎君は第二楽章、わたしは第三楽章。音大に進むことが決まっていた圭太郎君と、全然はかどらない受験勉強にむしゃくしゃしていたわたし。
ぴったりね、じゃあ私が第一楽章を弾こうかしら、月光発表会ね、と先生は楽しそうに笑った。そしてわたしの手を取って、半端なものにはしないで、と釘を刺した。
その時、先生の生徒は二人だけ。発表会の三ヶ月前、先生の左手薬指でリングが光っていた。