pp―the piano players―
「一緒には、行けないよ」
 彼も、さも当然という風に答えた。
「ここでやらなきゃならないことがあるんだ」

 彼は優れた指導者。彼のブランドは、彼が音楽の本場にいることで価値が高まる。そんな解りきったことを。

「君のように、風に吹かれてやってくる原石を磨くのが私の仕事だ」
 そう、彼は転がって来た石の中から幾つかを摘み上げては、磨く。確かに私のことも、一番近くに置いて手塩にかけて磨き上げてくれたが、それでも幾つかの中の一つに過ぎない。
 彼を日本に連れて行くなんて、そんな独り占めは出来ないのだ。

 私は、彼が好きだった。新しい音楽と求めていた音楽の楽しさを与え、教えてくれたのは彼だった。そして彼は、私を愛してくれた。きっと、愛してくれていた。
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