pp―the piano players―
翌日の土曜日の午後、久しぶりに先生の家を訪れた。庭には春の花が溢れるように咲いていて、その上を過ぎる柔らかい風が心地良い。
「早紀ちゃん」
家の中から出てきたのは、先生ではなく加瀬さんだった。白いシャツに動き易そうなパンツを履いている。すっかりこの家に馴染んだ、という顔をしている。ここがわたしの知っている場所ではなくなってしまったような、そんなざわざわしたものが胸を霞めた。
「先生はどこにいますか」
とわたしが言うのと、キッチンの奥でオーブンが何か焼き上げた音がしたの、それから良い匂いが漂って来るのがほぼ同時だった。