pp―the piano players―
 先生にもてなされるのは、やっぱり変な感じがする。

「早紀ちゃんが来るって、張り切ってるんだよ。美鈴さん」
 紅茶をいれながら、加瀬さんが自慢気に話す。先生はその脇で、にこにこしながらケーキを切り分けている。

「張り切らなくても、先生のケーキは美味しいです」
「あ、早紀ちゃんのベーゼン、治しておいたからね」
 私の話なんか、加瀬さんは聞いていない。それに、あのベーゼンドルファーは私のものではない。先生のお父さんが集めたものの一つだし、ここを離れた私に「自分のものだ」と言える資格はない。

 先生はケーキを乗せたマイセンのお皿を、リビングのテーブルに並べていく。ケーキはシンプルなチョコレートケーキ。添えてあるホイップクリームは、きっと甘さ控え目。
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