pp―the piano players―

 わたしはステージへ出た。月はまだ雲に隠れているけれど、歩むべき道は見える。ステージの中央まで行って、見えない客席を見た。

 月の綺麗な夜に演奏しましょう、と先生が言ったから、今日のお客様は誰もいないと思っていた。でも拍手をしてくれる方がいて、先生がいて、圭太郎君がいる。

 お辞儀をする。

 椅子に座る。

 雲が切れて、鍵盤がぼうっと光った。左の五番の指をドのシャープに、右の一番の指をソのシャープに置く。鍵盤のあたたかい堅さを確かめて、手首をすっと上げる。わたしは走り出した。


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