pp―the piano players―
いつか、先生がこんな話をしてくれた。
その時、ベートーベンは恋をしていた。身分の差のために叶えられない恋。
月光、とも呼ばれるこのソナタの第一楽章は、彼のその恋の悩み。三連符は堂々巡りの疑問と答え、低音は彼女を思う気持ちの深さを。第二楽章は、彼女の愛らしさと、彼女に恋をしていることへの喜びを表している。
そして第三楽章、プレスト・アジタート。急速に、激情的に。どうしてどうしてどうしてだめなんだ、そんな叫びが聞こえてくるメロディ。
恋を諦められないベートーベンの思いをピアノにぶつけながら、わたしの頭の中では色々な思い出が浮かんでは消えていく。沢山の、色々な、楽しかった、苦しかった、大好きな、ピアノと、ピアノを弾くわたしたち。