Dragon Hunter〜月雲花風〜
「バルトっ!!!」
叡刃が怒鳴る。
エドガーは黙っている。バルトの意図を理解しているのだ。この場合、バルトが正しい。過去に何があったか知らないが、叡刃は感情的になりすぎだ。
「んじゃこのまま放っとくか?」
びくりと叡刃の肩が震える。
「お前にもわかるよなあ。コイツ舌噛み切って間違いなく死ぬで」
叡刃は俯いて拳を固く握っている。彼とてわかってはいるのだ。だが、感情が理性を上回る。
「他に何か、方法…」
「ない。諦めろ」
冷ややかにそう言うとバルトはまたハミルトンを見た。
「てな訳で、言うたもん用意してくれる?」
にかっと笑って言うバルトに先程の威圧感はない。
そう。
彼は滅多に己の本心を見せない。常に笑顔を絶やさないが、それは一種のフェイクだ。肝心なところはその笑みに紛らせ悟らせない。飄々とふざけたような態度で周りを煙に撒く。出自も経歴もわからない。ただ一つ言えるのは、彼がただ者ではないということ。
ハミルトンは直ぐさま彼の言葉に従った。直感が教える。彼の指示に従えと。
しばらくしてハミルトンが持ってきた布を口に巻き、さるぐつわを噛ませたバルト。あまり丁寧とは言えない仕草で少女を床に横たわらせると叡刃を促し牢を出る。ハミルトンが鍵を閉めた。ガシャンと音がして再び牢は閉ざされた。
重苦しい空気が全員を包む。外に出たエドガーはふと空を見上げた。あれほど分厚く空を覆っていた雲は晴れていて、何日かぶりに太陽が顔を覗かせていた。風が彼の短い髪を揺らし、鳥が遥か上空を横切っていった。
穏やかなある日の午後。
黄昏が迫る。
ここからは魑魅魍魎が跋扈する夜が始まる。