Dragon Hunter〜月雲花風〜
「野郎っ!」
常人より遥かに優れた五感を持つ彼らもまた気付いていた。ドラゴンの咆哮が止み、腹が大きく迫り出し、その膨らみが喉へと移動し始める。
その異様な光景にいち早く反応したのはバルトだった。助走をつけタンッと地面を蹴り跳躍する彼の背には漆黒の翼が現れる。大きく開いたそれは風を受け一気に空へと舞い上がる。
一閃。
二閃。
風を切り裂き真空の刃が飛ぶ。
『裂風』
しかしそれは標的に当たることなく霧散した。
「ちっ」
真空の刃の後ろから迫っていたバルトが舌打ちとともに直接斬撃を繰り出す。
パリン
とドラゴンを囲んでいたバリアが消失する。
ふ
と短く息を吐き出したバルトの剣がドラゴンに届く寸前だった。それが起こったのは。
ごぽっ
そんな音を立ててドラゴンの口から何かが吐き出された。
凄まじい勢いで落下するそれは、エドガーの張ったシールドに直撃。
直撃の瞬間エドガーはその地点に一時的に魔力を集中させ、シールドを強化。
叡刃はこの時不測の事態に備え地上で待機している。
『何か』は皮肉なことに強化され硬度をましたシールドに直撃したことで破裂。
同時にその中身が町中に降り注ぐ。
シールドは展開されていたもののそのあまりの数の多さとパワーに圧倒される。
そのうちいくつかは叡刃により消滅させられたが、魔術のサポートなしに彼が空中戦を行えるはずもなく、地上からシールドに侵入を拒まれているその物体に攻撃を加えるには手段が限られていた。
街全体という広大な範囲に、元々それほど持っている訳ではない魔力を用いシールドを展開していたエドガーに叡刃のサポートを行える余力はない。
ましてバルトはドラゴン本体と交戦中で眼下の光景に気を取られている余裕はなかった。