Dragon Hunter〜月雲花風〜
叡刃は全く気にしていなかったが、気どられることなく彼の後ろに立つことは難しい。表情こそ全く変えていなかったが、バルトの纏う雰囲気は険しかった。もちろん、彼女が最初からそこにいたことにバルトは気がついていた。だが、叡刃でさえ気付かないほど彼女の隠形は完璧だった。それも彼女はほぼ無意識にやっている。バルトでさえもう少しで見落とすところだったほど。彼はゆっくりと彼女に近づいた。

「叡刃、ちょっとそいつ借りてええ?」

 軽い口調で、そう言葉をかけたバルトに叡刃は過剰に反応した。

「ダメ!ヒオウは渡さないよ!!」

ぎゅうっと腕に力を入れて、ヒオウを腕の中に閉じ込める。どうやら先程の牢獄での一件がよほどショックだったらしい。

「…叡刃、苦しそうだぞ」

睨み合う二人、といってもバルトは笑顔だが、に声をかけたエドガー。ハミルトンはエドガーの横でオロオロしている。

「ごめんねっ。気付かなくて」

ばっと体を離すと大丈夫?と彼女の顔を覗き込んだ。こくりと頷くヒオウにホッとした表情をすると、するりと彼女の後ろに回り込んで腕を彼女の体に回した。ヒオウを後ろから抱きしめる格好で、叡刃はバルトの方を向いた。

「これでも話はできるだろ?」

「ああ。別にそれでも構へんで」

ヒオウをよそに二人で勝手に合意に至る。本人の希望も聞いてやれよとひそかに思ったのはエドガーである。

「お前、なんであの牢を出たんや」

エドガーの問いに黙ってヒオウは背後の建物を指差した。そこにあるのは先端がものの見事に潰れた牢獄塔。

「文章で話せや」

「ドラゴンの卵が直撃して牢が壊れた」

「よく生きてたね〜」

叡刃の呑気な一言にため息をつくとバルトは言った。


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