玲子と泥棒と先生
桐生は懐かしさから教室の中にまで入り込んで先生を見つめていました。
授業も終わり、いつの間にか下校の時刻が迫っています。
さっきから、先生は一人の生徒と向かい合っていました。
「これだけは忘れないで、君は決して一人じゃないのよ」
桐生は聞いたことのある言葉にぴくりと身体が反応します。
「すくなくとも先生だけは今年だけじゃなくて、中学を卒業していったあともずっと、君のことを見守っていくから」
忘れていた先生の言葉が、すぅーっとよみがえってきました。
あの時の言葉です。
桐生は今でもその後にしでかした情けない行為を思い出します。
あれから何度思い返したかわかりません。
何かのきっかけでふと思い出し、叫び出したいぐらいに後悔するのです。
きっと、大好きだった先生をカンカンに怒らせてしまった報いなのでしょう。