玲子と泥棒と先生
その生徒は下を向いたままでした。
先生の話を聞いているかどうかさえ疑わしい限りです。
そして、生徒の手が動いたと思った瞬間、その手は唐突に先生の胸をわしづかみにしていました。
桐生は昔の自分を見ているようで、胸を締め付けられます。
しかし、先生はその生徒の手を取ると額をちょんとはじいて、その生徒をぎゅっと抱きしめたのです。
「先生・・・」
その生徒は先生の手をふり払い教室の出口へと走りました。
「明日もちゃんと出てくるのよ」
ドアに手をかけ、振り向くその子はあかんべぇとばかりに舌を出しました。
でも、満面の笑みに包まれていました。