玲子と泥棒と先生
声を掛けてきたのは、そのひとの方からでした。
「わたしたち、死んだんでしょうか」
「そうみたいっすね」
そのひとも桐生と同様、自分が死んだことを悲しいとも悔しいとも感じていないようです。
「お名前は?」
「俺ですか。・・桐生伸一、です」
「わたしは西園玲子。この間までM商事にいたんですけど、いろいろあって今は失業中」
「そうですか。M商事ですか。・・実は俺、泥棒だったんです」
(オ、俺ったら、なに言ってんだ)
「そうなんだ。泥棒、だったんだ」
信じられません。
まさか自分で本当の事をバラしてしまうなんて、桐生は自分自身にあきれていました。
「すいません」
「別に謝ることないです。私だって、不倫が元でクビになっちゃったし」
「ふりん?・・」
「そう、相手は上司で、悪いことに社長のムスメムコ」
「はぁ、・・」
「そのお陰で失業です」