玲子と泥棒と先生
桐生は死んでしまってから変だとは思いましたが、母親の墓参りに行くことにしました。
桐生は母親を九つの時に亡くしていました。
「伸ちゃん、いっしょに死のうか」
突然のことでした。
母の問いに桐生は何と答えていいものかわかりません。
「いや」
そう、小さく返事して、母親の顔色を伺いました。
母親は何ごともなかったかのようにニッコリ笑います。
「そうだよね。ごめんね、伸ちゃん」
そう言うとしっかり握っていた手を離し、桐生の頭を軽く撫ぜました。
そして、あろうことかそのまま一人で海へ飛び込んだのです。
「かあちゃん、・・」
何がなんだか分かりません。
目の前から母親が消えたのです。
どうして、あの時いっしょに死ななかったのでしょう。
あの時、母親といっしょに死んでいれば良かったのです。
そうすれば泥棒になることもなく、純粋なままで死ねたのです。