時計塔の鬼
目の前の異人は微かに目を見開いた。
しかし、すぐに目を細めて、微笑んだ。
「シュウ。それが俺の名前。……しばらく、楽しめそうだな」
最後の方は、自分に語りかけるような小さな呟きだった。
掴まれていたいた腕が自由になる。
思わずよろけてしまって、たたらを踏んだ。
腕をさすり、掴まれていた場所を見る。
「…………」
あれだけ強く掴まれていたのに、少しも痛くなければ、そこには僅かな痣も残っていない。
残っているのは、額に感じた温かさと赤く染まった頬。
そして、うるさいほどの自分の心臓の音だった。