時計塔の鬼
夕焼けが時を告げる。
もう今を黄昏と呼ぶことに支障はない。
「じゃあな。もう、行くんだろ?」
「あ、うん……そろそろ行かなあかんみたいやわ」
さくらは左腕の時計を確認して、グルリと紅色の街並みを眺め、また俺に向き直った。
「じゃあ」
「ああ、じゃあ」
「……ばいばい」
別れの言葉は、それだけだった。
“元気でな”や“またな”は無い。
見つめ合った後、さくらは静かに塔を降りて行き、最上階に居た俺には、反響した足音だけが聞こえた。