時計塔の鬼


三度目を叩くが、見えない壁の様子は変わらない。

変えられない自分に腹が立った。

痛みが増したように思えて、右手の拳を見る。

殴った箇所からは、僅かに血肉が覗いていた。



痛かった。

拳よりも、心の方が。



ごめん、さくら。

側には行けない。


何も出来ない俺が嫌だった。

側に駆け寄れない自分が恨めしかった。

俺と話なんかをしていなければ、さくらは事故に遭うことはなかったのでは。

考えれば考えるほど、俺の思考はズブズブと泥の沼に沈んでいく。


どうしようもなくなり、うなだれて座りこんだ俺の耳に、風を切り裂いて近付いて来る救急車のサイレンが聞こえてきた。

無機質でなぜか心を掻き乱す音が、ひどく憎らしい。



< 140 / 397 >

この作品をシェア

pagetop