時計塔の鬼
三度目を叩くが、見えない壁の様子は変わらない。
変えられない自分に腹が立った。
痛みが増したように思えて、右手の拳を見る。
殴った箇所からは、僅かに血肉が覗いていた。
痛かった。
拳よりも、心の方が。
ごめん、さくら。
側には行けない。
何も出来ない俺が嫌だった。
側に駆け寄れない自分が恨めしかった。
俺と話なんかをしていなければ、さくらは事故に遭うことはなかったのでは。
考えれば考えるほど、俺の思考はズブズブと泥の沼に沈んでいく。
どうしようもなくなり、うなだれて座りこんだ俺の耳に、風を切り裂いて近付いて来る救急車のサイレンが聞こえてきた。
無機質でなぜか心を掻き乱す音が、ひどく憎らしい。