時計塔の鬼
「……負けたよ。夕枝には負けっぱなしだ」
「シュウ……?」
「今を。刹那的に、今を生きてみることにしようぜ。な、夕枝?」
刹那的に。
今、だけを見つめて。
「うん……っ!」
「あ、でも一つ訂正」
「何を?」
そう尋ねると、シュウはニヤリと、シュウらしく笑んだ。
「別れる時のことって言ってたけど、俺は当分別れる気なんてないからな」
嬉しい訂正に、自分の頬が緩むのを感じた。
シュウに抱きつき、背中に腕が回されるのを待って、口を開く。
「……私だって、ないよ」
塔に吹き付ける風はとても冷たかったけれど、シュウの腕の中にいると、それさえもがどうでもいいことのように感じられた。