時計塔の鬼
「あ、沖田先生とあゆ…とと、井上先生ー!」
何やら呼ばれる声がして、塔から視線をスライドさせると、そこには何に使うのか、大荷物を持った坂田先生がいた。
「近くに生徒いないし、歩美でいいよ。慎ちゃんに苗字で呼ばれるのって変な感じ。それより、その荷物一体何なの?」
二人して歩み寄りながら、歩美はあきれたように話しかける。
坂田先生――いや、もう坂田君でいいや。
彼は歩美に話しかけられて、照れたように笑んだ。
「や、そのっ……つい二人を見掛けたからさ? 元クラスメイトと幼馴染みだし、ついつい……」
――ゴンッ
歩美が坂田君を肩を殴った。
肩にしたのは、頭には届かなかったからであるらしい。
「いてぇーっ!」
「もぅっ! 慎ちゃんの馬鹿ー! 夕枝、さっさと会議行こうっ!!」
痛がる慎ちゃん、もとい坂田君を放置して、歩美は私の手を取り、ずんずん歩き出す。
坂田君が追いかけて来る気配はない。
「慎ちゃんの馬鹿……鈍感っ!」
歩美がブツブツとそう呟きながら進むので、事情を知ってる私は口を開けずにいた。