時計塔の鬼
井上歩美と坂田慎平は幼馴染み。
私がそれを知ったのは大学の時だった。
歩美と飲みに行ったら、必ずといってもいいほどの確立で恋愛相談をされるので、すっかり事情通になってしまった、というわけだ。
「では、これにて会議を終わります」
私や歩美の父親くらいの年齢の学年主任の言葉で、私たちは開放された。
私や歩美は時間に余裕を持って会議室に来ていたのだけれど、坂田君はギリギリにやってきていた。
使われたプリントを角を合わせてクリアファイルに収めている間に、他の先生たちは会議室を出ていた。
「う~ん、疲れたぁー」
歩美の言葉に頷く。
「肩が凝っててやばいなぁ~……」
「ああ、夕枝すごく凝りやすいよね」
「結構大変なんだよ?」
そうしてクリアファイルを手に、会議室を出ようとしたら――。
「あ、井上先生! 沖田先生!」
「……何ですか? 坂田先生?」
出て行ったと思った扉から、坂田君が顔を出した。
歩美は少なからずうんざりとした風で答える。
けれど多分、歩美のそれは演技だろう。