時計塔の鬼
すると、「……うん。ありがとう、夕枝」と国宝級とも言える笑顔で歩美は答えた。
……可愛い。
女同士でも、歩美の笑顔はすごく魅力的だ。
男なら一発でノックダウンするはず。
ふいに、坂田君を振り返り、思った。
少し、寂しいかな。
でも、歩美のためだし、ね。
歩美の恋は上手くいって欲しいけど、歩美を取られるような感覚になってしまった自分に、少しだけ苦笑した。
嫌だなぁ、私。
心の片側では親友の恋を応援していても、もう片方では、今みたいに一緒に話すことが減ってしまうのかと思うと、歩美の想い人をうらみたくなる。
けれど、それ以上に歩美の悲しそうな顔は見たくない。
だから、精一杯応援するんだ。
「じゃあバイバーイ! 坂田君、歩美をよろしく!」
その場から立ち去り際にそう言ったら、歩美は顔を赤らめながらも「バイバーイ」と手を振り、坂田君はきょとんとしてから、「またなー!」と答えた。
果たして、歩美の恋は実るのか。
それはまだ、誰にもわからない。