時計塔の鬼
「でもさ、俺って幸せでもあるんだよな。……夕枝がここにいてくれるから。もう、それだけでいいや」
「私だって、そうだよ。シュウがいなきゃ、幸せなんてありえないもの」
「夕枝……」
シュウは私の名前を囁くと、腕の力をさらに強めた。
体が軋むみたいで、少し痛い。
けれどこれは、シュウの私への思いがさせていることだって、わかる。
私だって、伊達に長くシュウの恋人をしていないんだから。
シュウは不安なんだ。
「シュウ……」
うわ言のように私も名前を囁いた。
すると、ハッとしたシュウは腕の力を弱めて、体を離した。
「夕枝、ゴメン。力、入れ過ぎた」
「うん。もう大丈夫」