時計塔の鬼


「でもさ、俺って幸せでもあるんだよな。……夕枝がここにいてくれるから。もう、それだけでいいや」


「私だって、そうだよ。シュウがいなきゃ、幸せなんてありえないもの」


「夕枝……」



シュウは私の名前を囁くと、腕の力をさらに強めた。

体が軋むみたいで、少し痛い。

けれどこれは、シュウの私への思いがさせていることだって、わかる。

私だって、伊達に長くシュウの恋人をしていないんだから。

シュウは不安なんだ。



「シュウ……」



うわ言のように私も名前を囁いた。

すると、ハッとしたシュウは腕の力を弱めて、体を離した。



「夕枝、ゴメン。力、入れ過ぎた」


「うん。もう大丈夫」



< 187 / 397 >

この作品をシェア

pagetop