時計塔の鬼


その後は、特別何もなく、話を続けることができた。

歩美と坂田君の話でシュウは「さっさとくっつけばいいのに」と呟いていたことを除けばだけれど。


私の話が終わって間もなくして、チャイムである時計塔の鐘の音が聞こえた。

そして、『完全下校時刻になりました。校内に残っている生徒は速やかに下校してください。繰り返します……』というアナウンスが聞こえた。


私はこれを聞いたら帰らなければならない。


赴任当初に、この放送を無視したことがあった。

けれどその翌日、学年主任に呼び出された上に始末書を散々書かされたのだ。

バレた理由は、見回りをしていた用務員さんが、靴で私が学校から出ていないことに気付いたためだそうだ。

捜して下駄箱に戻ったら、今後は靴があったらしいけれど。

当然ながら、私は時計塔にいるなどとは言わず、適当にその場を誤魔化した。

その日の夕方、シュウはその話を聞くと、申し訳なさそうに謝っていた。

けれど、私が聞きたかったのは、謝罪なんかじゃなかった……。

でも、シュウは私のその気持ちを知った上で謝っていた。

それを察してしまった以上、私は謝罪を受け入れるしかなかった。



そのことがあって以来、私はあのアナウンスで帰るよう、シュウに促されるようになって今に至る。




一緒に居たいって思うのは私だけなのだろうか。

何度も何度も、そう思った。

でもそうじゃないって、私はちゃんと知っている。

わかっている。


……私のためだということ。

シュウだって、会いたいという気持ちは同じなのだから。


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