時計塔の鬼
「…ぇ………夕枝っ!」
「へ?」
シュウに耳元で呼ばれ、ビクッとし思わず聞き返した。
するとシュウは、深々と溜め息を吐いた。
幸せが逃げるのに。
そう思ったけれど、口にはださなかった。
「何度呼んでも気付かねぇんだもん。何事かと思った」
シュウは私の頭をガシガシ撫でながら、そう言った。
シュウが頭を撫でる仕草も私は好き。
全部が好きなんだ。
「ん、ゴメン。考え事してた」
「そっか。じゃ、また明日な。気をつけて帰れよ」
「うん。また明日……」
こういう時。
見送る側も、見送られる側も辛い。
シュウの瞳も、おそらくは私の瞳は切なさに揺れているから。
けれど、今日の別れは明日の再会。
そう、信じてる。
階段の側で、私の体は温もりに抱かれる。
シュウの温もりが、髪に。
額に。
瞼に。
頬に。
耳に。
そして唇に、シュウの温もりが降り注ぐ。