時計塔の鬼
「何のことなの?」
心の声が、スルリと空気を震わせた。
「……ババァがね、ネチネチと言って来たの」
「ああ」
歩美がいう“ババァ”とは、そこそこに年季の入ったお局的存在の数学教師のこと。
歩美はそのお局的存在の教師がとても苦手であるらしい。
かくいう私も、彼女が苦手ではあるのだけれど。
心の中では、“おツボ”と呼んでしまうくらいに。
歩美が密かに愚痴を零す姿を見ていると、“コブラとマングース”の話を思い出した。
そういえば、あれって結局どっちが勝ったんだっけ?
「とにかく、気をつけてね? 夕枝」
「うん」
そういえば、最近よくおツボに注意されることが増えたような……。
ここ最近を振り返りながら、私は冷めた麦茶をすすった。