時計塔の鬼


「一体どうしたの?」


「ちょ、ちょっとね……」



“失敗の積み重ねで”

なんて、とてもじゃないけど言えない。

歩美は私の答えに満足した様子はなく、小首を傾げた後、私の顔を覗き込んできた。



「何かあったら聞くけど?」


「ん、ありがと。でも何でもないから心配しないで」



歩美の言葉にじーんと感動しかけたものの、幸せ真っ只中の歩美の気分に水を差すことはしなかった。

けれど――。



「そんなことよりもね! でねっ! 最近慎ちゃんがね、すっごく可愛いのっ!」



続いて現れたノロケに、ガックリ脱力した。


気持ちの切り替えが大切だ、というのは、よくわかる。

けれど、これはいかがなものだろう。



「なんて言うかなぁ。照れてるんだけど、照れまいとしてるところなんて、可愛いって本当に思っちゃうの! 素直になったらいいのにならなかったり、認めようとしなかったりっ! 本当に可愛くて可愛くて!!」


「歩美ー……」


「ふぁあに?」



切ない私の声もむなしく、歩美の口は、ノロケることとともぐもぐと昼ご飯のお弁当を咀嚼することに、余念がない。


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