時計塔の鬼
見覚えはあるけど、名前はわからない。
態度や制服の汚れ具合からして、多分一年生だろうけれど。
二三年生で、こんなに綺麗に制服を保っている子は、多分居ないだろうから。
「えと、何かな?」
「あ」
その生徒は目当ての人物が見つかったことにホッとしたらしく、爽やかに笑った。
その爽やかさがあまりに珍しい。
いつの間にそんなことを思うようになってしまったんだろうか、と過去の自分を振り返って、少し悲しくなった。
「すみません。お食事中でしたか?」
何だろう、この生徒。
ものすごーく、礼儀正しいのだ。
……珍しい。
非っ常に珍しい。
……こんな生徒、受け持ちにいただろうか?
頭の中でさらりと回想してみても、それらしき記憶は見当たらない。
不思議に思ったけれど、安心させるように少し笑って、「ううん。もう食べ終わってたから。で、何?」と再度問い掛けた。