時計塔の鬼
「歩美……それ、酔っ払いみたいよ?」
「いいのよぉ~。酔っ払いでいいじゃないっ。あっははぁ~」
歩美は絡み酒だ。
しかも、すごく性質が悪い。
「夕枝ぇー。話しなさいよぉ!」
向かいから腕をガクガク揺さぶられる。
少しだけ飲んだお酒が早く回りそうだ……。
今日深酔いしたら、それは間違いなく歩美のせいだ。
「歩美。絡むなよ」
苦笑した坂田君が、歩美の左手を軽く引いた。
彼の手にも、ビールの入ったジョッキが握られている。
「い~や~よぉ~。言うまで離さないんだからっ!」
けれど、効果はなかった。
「……沖田さん、いつもながらマジごめん」
「うん。仕方ないね、歩美の絡みは」
本当に申し訳なさそうに謝る坂田君が、逆に気の毒になる。
歩美と付き合うなんて本当にすごいと、今さらながらに深く感心する。
そういう私も、歩美との交遊歴は短くはないのだけれど。