時計塔の鬼


「私ね、最近よく物を失くすみたい」



釈然としない顔で、友人カップルは「で?」と続きを促した。

その間にも、ジョッキの中の黄金の液体は消えていく。



「……夜道に、後ろから足音が聞こえたりするの」


「え……?」

「なぁぁんですってぇぇぇええっ!!」



ガタンッ……と椅子を引き倒しかねない勢いで、歩美が叫んだ。

……心配してくれるのはわかるけど、耳が痛い。

そして、店中の人間の視線も痛い。

坂田君が慌てて歩美を座席へと座らせた。



「……歩美、お前黙ってろ。で、沖田さん、気付いてどうしたんだ?」


「コンビニに逃げて、そこに居た従兄弟に送ってもらっただけ。犯人とか、わからないし」


「そうそう」



第三者の声が、いきなり聞こえた。

しかも、私も坂田君もよく聞き知っている声だ。

嫌な予感がしつつも、バッと振り返る。



「葉ちゃん!?」


「葉平!?」



当たって欲しくなかった予想通りに、そこには不適な笑みを見せる葉平と――。



「俺も居ますよ」


「田中君!?」


「田中!?」



葉平に遅れてテーブルに近寄ってきた田中君の姿があった。


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