時計塔の鬼
今日のお昼休み、勉強しに来た葉平の手には、束になったプリントがあった。
「沖田君それどうしたの?」
学校では、葉平のことは名字で呼ぶことにしている。
私たちが従兄弟だって知ってる人は少ないけど、知られると面倒が起こりそうだった、というのが最たる理由だ。
現に。
「沖田く~んっ! どこぉー!?」
職員室前の廊下だというのに、女の子たちの声が、室内にまで響いてきている。
教師たちからのシラーッとした視線が葉平に集まった。
けれど、葉平は痛くもかゆくもなさそうにのほほんとしている。
「葉平。いいかげんあいつらの相手してやればいいのに」
「なんでしないの?」
二人に答えを迫られ、歩美と坂田君からも催促の視線を受けて、葉平はあっけなく陥落した。
「……だってうるせーんだもん、あいつ等」
「同情しとく」
「坂田センセ、それ俺に対してヒドい」
恨めしげな目を向けていた葉平は、くるりと体を翻して、私を見た。