時計塔の鬼
「で、それなんだけど。それ、昨日の夜にプリントアウトしてきたヤツ。ストーカー被害の防止と対処法が載ってるから」
“参考にして”と葉平はそれだけ言うと、早々に席を立った。
ズラしているズボンのポケットに手首から先を突っ込みながら。
「もう行くの?」
「だって、あいつ等うるせーからさ。少し黙らせてくる」
ニッと意地悪気に、けれど無理矢理のように笑みを作って、葉平はスタスタと出て行った。
それを見て、彼の親友は、呆れた顔をしていた。
「葉平のやつ、あれはかなり頭に来てますよー……」
「そうなの?」
「うん。井上先生、あいつの顔が引きつってたの見たっしょ?」
“なるほどねー”と歩美の返事は、気がなくてそっけない。
坂田君はペラペラと、葉平の残していったプリントを見ていた。
近寄って半分を渡してもらう。
――ペラッ
本当に、すごい量だった。
パッと見ただけなのに、目が痛くなってしまいそう。
それくらい、びっしりと文字が埋め込まれてる。
プリントの重みが、葉平からの心配の重みに、重なった。
……葉ちゃん、ありがとう。