時計塔の鬼



――プルルルル…
――プルルルル…




歩美、早く……っ!

多分、必死の願いが通じたんだろう。



『もしもしっ!夕枝?』


「あ、歩美ぃ……」



携帯越しに歩美の声が聞こえた。

これでストーカーへの牽制にはなるはず。

少しの安堵から涙が零れそうになるのを、必死に堪えた。

まだ、安心はできない。



その時――。

フッと背後から、気配が消えた、ように思えた。

恐る恐る、携帯の向こうにいる歩美に話しかける。



「歩美、もう大丈夫かな……?」


『わからないけど……用心だけはちゃんとしてね!』


「うん……」



また涙が零れそうになった。


< 277 / 397 >

この作品をシェア

pagetop