時計塔の鬼
――プルルルル…
――プルルルル…
歩美、早く……っ!
多分、必死の願いが通じたんだろう。
『もしもしっ!夕枝?』
「あ、歩美ぃ……」
携帯越しに歩美の声が聞こえた。
これでストーカーへの牽制にはなるはず。
少しの安堵から涙が零れそうになるのを、必死に堪えた。
まだ、安心はできない。
その時――。
フッと背後から、気配が消えた、ように思えた。
恐る恐る、携帯の向こうにいる歩美に話しかける。
「歩美、もう大丈夫かな……?」
『わからないけど……用心だけはちゃんとしてね!』
「うん……」
また涙が零れそうになった。