時計塔の鬼


安心してしまった。

おそらくは……それが、間違いだった。

安心を盾にして恐る恐る背後を振り返った。

そうして、見たものは――。






「ヒッ……ッ……」


『夕枝、どうしたの!? 夕枝!!』



歩美の声が遠くに聞こえる。

考える余裕なんて、皆無だった。

なぜなら……、後ろに居たんだから。



「キャ――!!!!」



黒いパーカーに、深く帽子をかぶった、中背の男。

パーカーと帽子の二重に隠された顔は見えなかった。



怖い、怖い、……逃げなくちゃ。

それだけが、真っ白になった頭の中に突如として浮かんだ。

それはただの危険回避本能だったのかもしれないけれど。



いきなり大声を出されて、相手……ストーカー犯は、足を止めている。

逃げるなら、今しかない……っ!


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