時計塔の鬼


「あ、歩美、酔ってるんじゃない?」


「酔ってるわよーぉっ! でもねーでもねー、夕枝の恋バナの方が大事だもーん」



絡み酒、再発。

坂田君を呼ぶわけにはいかないから、早急に寝かしつけるのが賢明だろう。

ざっと頭の中で、逃げ道をはじき出す。



「私もう眠いよ……。明日も学校だし。歩美も早く寝よう?」


「夕枝が甘い話を吐いたらねっ!」



だめだ。

逃げ道は、使えない。

意識を外にして、口が、開いてしまう。



「恋は、してるよ」






とうとう――、私は歩美に隠すことを諦めた。

歩美になら、いいかもしれない。

歩美は口が堅いから。

……そう、自分に言い聞かせてしまっていることで、私も自分が酔っていることを自覚した。



「え! 本当? だれだれ? どんな人!?」



好奇心が強くて、元気で、一生懸命。

そんな歩美になら、いいかもしれない。


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