時計塔の鬼


「あ、歩美ぃ……」


「そういえばっ! 夕枝、いつからなの?」


「へ?」



またしても、気の抜けたような返事をしてしまう。

広くはないベッドの上で、ずずいと歩美に詰め寄られた。

好奇心に満ちたその目は真剣そのものだ。

……怖い。

化粧をしていないはずなのに、今の歩美の目力が、とてつもなく怖いのだ。

親友に恐怖を感じるのもどうかとは思うが、それどころではない。

真剣な目ほど怖いものはない、と悟った。



「い、いつから……って?」


「だーかーらー夕枝はいつからその鬼のことが好きになったの? ってこと!」


「えーっと……高一の時、からかな?」


「へ? 高一…って、八年近く前じゃない!」



また歩美との距離が縮まって、無意識に後ずさりしてしまった。

そんな私に気付いているだろうに、一切見なかったこととして無視して、歩美の追及は止まらない。



「あーもう! それって、あたしと出会ったときにはもう好きだったってことじゃない!」


「あはは……?」


「あはは? じゃ、ないわよー! 今までずっとしらばっくれ続けてきたんだから、逃がさないわよ?」



後ずさりし続けて、背中が壁に当たった。

ハッと後ろを見るが、もうそこに逃げ場はなかった。


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